橘玲氏の2003年発行の著作で、氏が単独で発表した小説以外の本としては「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」に続く2作目になります。
私はある一人の著者が好きかも?と思った時に、より深く理解したいと思ってひたすら同じ著者の本を年代順に読んでいくという行為を愚直にする傾向があります。というわけで今回はそのシリーズ2作目です。
前作についてのレビューはこちらに書きました。
合理的に資産を運用するための入門書としては「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」の方が優れていると思います。ただこちらの方が、資産運用に限らず幅広い消費活動についてのノウハウや考え方がまとめられているので、読む目的次第かもしれません。前作と同様、世の中の歪みを見つけ出してお得に生活しましょうってことです。また、どうしても15年前の本なので情報が古く使えないことも多く、その辺りは実用的というよりは今のシステムができあがるに至った理由を理解するためと割り切って読んだ方が良いかも。
あと、橘玲氏が現在のような生活を送るようになった理由・経験談のようなものも随所に書かれているので、彼のファンなどが彼のことをよりよく知るのには良い本なのかなと思いました。
以下は概要になります。
最初は貨幣経済の説明から入り、ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者ゲイリー・ベッカーが主張していると引き合いに出しながら覚醒剤・麻薬合法化論についての持論が展開されます。「合法化すれば末端価格が下がり、使用は増えるが、犯罪は大幅に減る。課税すれば税収も増えるから、その利益を非合法組織から取り戻し、無駄な社会的コストを削減することができる。」ということです。経済合理的に考えるとはこういうことだという実例として橘玲氏が好んで使う例ですね。この本から15年経って最近になりカナダでマリファナが合法化されましたが、果たしてどうなるのか、壮大な社会実験として私も注目しています。
平等な社会と自由な競争というパラドックスについてもわかりやすく説明されていました。
福祉国家というのは移民を制限する差別社会で、社会保障コストの低い(アメリカのような)国だけが大量の移民を受け入れられる、という話も今になって移民政策?を拡大させようとしている日本に生きる我々にとってはもっておかないといけない視点の一つでしょうね。福祉を充実させろ!という人は一見左翼的なんですが、他国の貧困者が来て福祉政策が後退してしまうという可能性についてはどう答えるのかぜひご意見を伺いたいところです。
そして信用経済や人的資本論などについて簡潔に説明された後に、主婦の節約術のような小ネタがその小ネタが生まれる仕組みの解説とともに羅列されていきます。
クレジットカードの小ネタについて、クレジットカードのビジネスモデル=手数料と時間つまり現在価値は将来価値からリスクと機会費用金利など割り引いたもので将来価値はその逆、という説明がされます。クレジットカードは時間を無料で買っており、販売店が時間を無料で売っている、つまり手数料が追加でかからないのなら二回払いやボーナス払いを設定するのが良い、ということになります。逆に言い換えると、販売店は商品価格に上乗せしており、カード払いの客が得した分、現金払いの客が埋め合わせているということ。
そうなると販売店は現金支払いの方が良いので、現金払いでポイントやスタンプを還元したりする。これはもう一回客に来てもらうことにもつながる。
このポイントカードの発展系が販売店が発行するクレジットカード。なるほどね。なんと昔は商品券でもポイントがもらえたらしく、まさしく黄金の羽ですね。友の会の商品券と金券ショップで儲ける話なんて聞いたこともなかった。商品券を常に利用する人がいるのは知ってましたが、これに関しては個人的には面倒でやる気はおきないです。
クレジットカードについてくるcccなどのレストランの優待サービスも聞いたことなかったけど、こちらもあんまり使うことはなさそう。
あとはクレジットカード付帯の海外旅行保険について。高額なのは死亡補償だけで、医療、救援費用は大抵ゴールドカードでも不十分で実際にはほとんど役に立たない、と断言されていますが、クレジットカードの付帯は足し算できるのでごく一部の都市を除いて3枚ぐらいあればある程度賄えると思うんですが、どうでしょう?ただ、クレジットの付帯の場合はその場で患者が払う必要があってあとから請求するのに対し、正規の海外旅行保険は医療機関は直接保険会社に請求するので受けられる医療の質が変わる、というのは事実でしょうね。自動付帯なのかツアー代金や航空券代などの公共の交通機関の費用をクレジットカードで払っているのが条件なのかは把握していた方が良いでしょうね。
マイレージプログラムについての項は、今とはちょっと違いそうですね。今なら便利なサイトもたくさんありますし、あんまり役に立たないかも。
後半戦の銀行の個人ローンと消費者金融のローンについては、著者の得意範囲だけあってなかなかに面白かったです。お金を借りるならまず公的金融機関そして次に消費者金融よりは銀行ローンを使う理由、上限金利引き上げの理由と悪徳業者の関係、保証人と連帯保証人の必要性など。
根保証の話は知らなかったですね。不良債権の損金計上と節税という視点や債権回収会社の存在もこの本を読むまでは知りませんでした。この辺は著者の小説「永遠の旅行者」にもでてきますね。
信用情報データベースの話も著者の本では頻繁に登場しますね。お金を借りたりクレジットカードを使うことは自分のプライバシーを一部放棄すること、第三者も調査会社を通じて簡単にこれらの情報にアクセスできる、というのは怖いですよね。
あとはリゾートマンションに伴うリスクなど、これはもう有名ですよね。不動産にプライバシーはないので、法務局で簡単に不動産登記簿を閲覧することができることなど。
最後にバケーションレンタルやタイムシェアなどのリゾートクラブの会員権をうまく使って、海外で格安でバカンスを過ごそう、という締めで終わりです。ヴァケーションイクスチェンジRCIの話などが書いてありました。「歪みを正しく利用することが得する生活」というこの本のメッセージで終わります。当然、市場は効率化しこの歪み(超過利潤)は現在は消滅していますので、今は役立ちませんが。この歪みをいち早くキャッチする環境の構築がまず最初ですね。
コメント